瀬戸内海は戦国の世となる以前から、海賊の多い地として知られていた

 

 

 

 

 

それをごく小さな一隻の船とわずかな手勢から見る間にまとめ上げたのが、今では『西海の鬼』と恐れられる長曾我部元親という男

しかしそれと同時に荒れくれ者達をまとめていった人物が一人

 

名を

女の身でありながら元親と平行的に海賊たちをまとめ上げた精鋭である

 

 

しかしその二つの賊には違いがあった

 

 

長曾我部軍は近海の村や一般の漁船を襲撃することはなく、その手下にも漁民や村民からの略奪を禁じ、逆に他の海賊に襲われている村や漁船を救出したりもした

その在り方のおかげで、もともと漁民、村民であった者が多いせいか、別の海賊団から元親のもとへ走る者が後を絶たなかった

海賊で分類するならなら穏健派といったところだろう

 

一方軍は、襲撃もするし、略奪もする。無抵抗な村民や漁民も戸惑いなく殺す。そしてついた名が『羅刹の血霞』

元親の武勇も何者も圧倒するものだったが、の武勇は恐怖の点で凌駕する

そして量より質というように、自分の部下になるほどの実力がなければ斬り殺す

そのせいで量的には長曾我部軍の方が兵は多かった

分類するならば過激派

 

しかし不思議なことに、軍から長曾我部軍に渡る者は誰一人としていなかった

 

 

正反対の気質を持つ軍が衝突しないわけがない

二つの軍勢の戦力がちょうど瀬戸内海の半分ずつを占めたとき、長曾我部軍が動いた

 

 

 

 

「アネゴアネゴアネゴぉぉおぉおお!!」

 

船内の端から端まで、男たちの声が響き渡る

つり床で丸くなっていたは眉を潜めた。遅くまで酒盛りをしていた頭に蛮声が響く響く

気分を害したは、ちょうど下を通った男の頭に徳利を落とした

 

「アネゴ!そんなとこにいたんですか!!」

 

 

「やかましい」

 

 

追加の杯をくらった男は今度こそ倒れた

それを気にすることもなく、は二度寝しようとつり床に丸くなる

 

しかし、それは許されなかった

 

「アネゴ・・・って、おまえどうした!?」

 

気絶した男に躓きかけ驚いたものの、つり床に横になっているを見て、合点がいったらしい

明らかに機嫌の悪いにじろりと睨まれ、二番目の男は竦み上がった

 

追い払おうにももう手元には何も残っていない

は舌打ちすると、イライラとしらながら問うた

 

「どうしたってんだ。朝っぱらから騒がしい」

 

「そ、それが、

 

 

長曾我部軍の奴らが来やがったんです!」

 

 

それを聞いた途端、の目が爛々と輝いた

大の男三人分はくだらない高さから、猫の如く飛び降り、綺麗に着地

すぐに船首まで駆けていくと、欄干に片足をかけて目に手をかざした

 

まだ小さいがあれだけの数ならば、長曾我部軍に違いない

というかこの瀬戸海には、と長曾我部の二派しかいないと見た

 

の軍の者たちは心配そうにの後ろ姿を見る

それというのもの肩が細かく震えているのだ

しかし程無くして小さな笑い声が耳を震わせた

 

「クク、面白いことになってきたねぇ

 

野郎ども!戦の準備だ!他の船の奴らにも文を飛ばせ!

 

こりゃあ、でっかい戦になるぞ!」

 

「おおぉおぉおお!!」

 

 

一気に静かになった甲板に、は一人残された

 

「鬼さんこちら、手のなる方へ・・・ってか。後で後悔すんなよ『西海の鬼』」

 

はまだ見ぬ西海の鬼・長曾我部元親に思いを寄せ、今から武者震いが止まらなかった

 

 

 

 

「アニキ、のやつらが動き出したみたいですぜ!」

 

 

その声に元親は望遠鏡を受け取ると、船団の中の船の最も大きい一つを見た

元親と同じく日ノ本には珍しい、金の髪を潮風になびかせながら、指示を出しているのがに違いない

しかし驚いた。羅刹というからたくましい体躯の持ち主かと思いきや、周りにいる男たちよりも背が低く、小柄だ

 

その時彼女が振り向いた

太陽を連想させる金の瞳が、嬉しそうに細められた気がした

 

「とても『羅刹』には見えねぇッスよね」

 

「確かにな。だが、なめてかかんじゃねぇぞ」

 

望遠鏡を返すと、準備をするよう手下を追い払った

 

元親は一度だけ、に襲われた船を見たことがあった

が、まさに地獄絵図という言葉が相応しかった

 

帆柱や欄干には熊の爪痕のように鋭い傷跡があちこちに残され、真っ赤な敷物が敷かれたような甲板には、うめき声をあげる海の猛者たちが転がる

ほとんどが生きてはいたが、一目でもう助からないと分かった

 

 

殺し損ねたのではなく、わざと・・・そうしたのだ

 

 

その惨劇を繰り広げた人物の残虐性を、忠実に表わしているようであった

 

「これ以上、俺の海で好きにはさせねぇぞ、『羅刹の血霞』」

 

元親の顔はいつになく険しかったが、強敵に対して己の心が震えていないわけではなかった

 

 

 

 

<跋>

元親連載開始!

書いててかなり楽しかったです。やっぱりBASARAに更新偏りそうだ・・・

熱が治まったらまんべんなく書くと思います

ってか、うちの子に非戦闘員いないなホント