海戦において物を言うのは、戦力ではない

 

 

逆に狭い船上で大量の兵を導入するのは、自軍の兵を死にに行かせるようなもので、無謀極まりない

海の状態などを統合的に見る冷静な判断力が鍵となる

ただ、陸での常識は海では通じないし、よい軍師を引っ張ってくればいいというものでもない

元親もも海戦において、優れた手腕の持ち主であった

 

 

 

空高く水柱が上がった。長曾我部軍の砲撃である

船が揺れたものの、直撃は避けられたようで大した被害は出ていない

幾人かの手下たちが転げただけだ

その中で微動だにせず、船首に仁王立ちしていたが声をとどろかせた

 

「砲撃用意!」

 

「発射!」

 

轟音とともに舷側から鉛玉が飛び出し、長曾我部軍の船の一つに直撃した

の持つ船は、異国船を略奪したもの

長曾我部軍より性能が高いことは当然であった

は歓呼すると、望遠鏡を手に取り、噂に聞いた白銀を探した

 

目の届く限りを見渡してみたが、どうやら目につかない

 

鬼と呼ばれるくらいなのだから、戦を好むのかと思いきや、最前線に出ていないとはどういうことだろうか

 

納得のいかないままに、目を凝らし続ける

すると、背後から冗談交じりの蛮声が降りかかった

 

「アネゴ!そんなとこにいたらあぶねぇですぜ!」

 

「あぁん?このあたしが砲弾に当たるとでも思ってんのか?」

 

「それはありえねぇでしょう!」

 

「海鳥になら攫われるかもな」

 

二人して朗笑すると、は望遠鏡を手下に押し付けた

そして自身は船の中央にある船楼に向かって歩きだす

水しぶきが腰に巻いた着物や、むき出しの肩にかかるが、は露がついたかのように気にしない

雫は彼女の金の髪とともに輝き、溶けた黄金のようだった

 

「どこ行くんですかアネゴ!」

 

「雑魚はてめぇらでやれ!あたしは西海の鬼が出てくるまで寝る。あとの指揮はお前に任せる」

 

「ちょ、ちょっと待って下さいよ!」

 

「断ろうってのか?できねぇなんて泣き言言うようじゃ、海に放り投げんぞ」

 

有無を言わさぬ口調で言い捨てると、は荒れた風の吹く船上から船楼へと消えた

 

 

 

それからほどなくすると、戦は激化した

互いの軍が互いの船に乗り込み、己の体、武器とのぶつかり合いがそこかしこで繰り広げられる

のいる船とて例外ではなかった。いや、寧ろ最も激しい場所といっていいだろう

 

もちろん、元親も敵将の居場所を確認していたのだから、そこに精鋭を注ぎ込むのは当然のことだった

 

そして自らも

 

 

「おうーらっ!!」

 

 

掛け声とともに、碇とも銛ともとれる武器を、片手で軽々と振り回しているのが長曾我部元親である

身の丈ほどもあるそれを振りまわされれば、普通の人間ではどうすることもできない

男たちの武器は砕け散り、吹き飛ばされ、その一撃で絶命する者も多くいた

自分の周りだけぽっかりと空間の空いた元親は、ぐるりと辺りを見渡してあの金色の女を探した

 

しかし見えるのは一般的な黒ばかり。目が覚めるほどの金色などどこにもない

 

「まさか逃げたなんてことはねぇよな」

 

ぽつりと呟いた元親の声は、男たちの怒鳴り声ですぐさまかき消された

部下を捨てて自分は逃げるなど、元親の性分が許すはずもなかった

 

 

気に入らない

 

 

それに逃げていないとしても、この戦い方がどことなく中国の毛利元就に似ていて、どうしてもいけ好かないのであった

恐らくあの女も、兵士たちを自分の駒としか見ていないに違いない

 

でなければ、なぜこのような戦い方をしようか

 

元親は雄たけびをあげながら向かってきた男を、碇槍のひと突きで倒し、大きく声を張り上げた

 

「羅刹!どこにいやがる!この『西海の鬼』が相手してやるぜ!

それともビビって逃げやがったのか!?」

 

 

「って思ってんなら、鬼の名もただの飾りってとこだな」

 

 

元親は咄嗟に碇槍で攻撃を防いだ

空中で回転し、甲板に足をついた人物は金の髪

 

「『羅刹』の名を馬鹿にされちゃあ困るね」

 

そういうとは、手に握られた銀色の髪に接吻を施した

 

 

 

<跋>

楽しいですともええ

なんだか今までで一番書きたいものを書いてる気がするよママン!

まさかの伊達夢より書きやすいという真実。どうしたこったろね

けど戦闘シーンは苦手なんだよなぁ・・・・。話し的に一話分くらいは持たせたいんだけど

誰か戦闘シーンの描写が上手い人知りませんか?(聞くな