長らく京の都に住んでいたではあったが、

これほどまでに大きく、そして美しい建築物に足を踏み入れたことなど一度とてなかった

父親には粗相のないようにときつく言い渡されていたにも関わらず、

幼い彼女の目は右へ左へと移るのである

 

 

まさか芸人ごときが城の中に入るなど、夢のまた夢ではないか

 

 

没落した大名の重臣であった父は、自尊心が高く、通りや座敷で芸を見せることなど無かったのだが、

母親と、母親亡きあとはが剣舞を見せ金を稼いでいたのであった

それを偶々見た奥州の伊達輝宗が気に召したらしく、

父子共々奥州の地を踏むこととなったのだった

父はまたあの日々に返り咲けるかもしれぬと息巻いている

 

緊張していないわけではない。しかしこれからどこへ連れて行かれるのか見当もつかないのだ

怯えようがないというのもあるだろう

しかしのような女がやることと思えば、今案内役をしている女中くらいのもの

それにしても自分は歳が幼すぎるのではないか

この歳で食い扶持を稼ぐものならば、誰でもが分かることである

雇い先が見つからず苦労するものの多いこと。売られる子の多いこと

ここまで親元を離れることのなかったのは、感謝すべきなのだろう

そういえば今晩は、米沢城に泊まるのであろうか。持つ物も持たずに来てしまったが

 

 

ふと我に返ると今まで案内していた女中がいない

慌てて辺りを見回してみるも、どうにも見覚えがない

さっと血の気が引いていくのがよく分かる

これはの悪い癖であった

一度に幾つものことを考えられるのは長所だが、考えに没頭していると周りが見えなくなるのだ

大声を出せば見つけてもらえるやもしれぬが、その後の仕置きを考えると得策ではない

がむしゃらに歩きまわってみるも、ますます迷うばかりで、いっこうに分からない

急に不安が込み上げ、零れそうになった涙を急いで拭うと、袖をひかれる感覚があった

「おまえ、どうかしたか?」

それが梵天丸――後の伊達政宗――との出会いであった

 

 

 

「いやぁぁああぁあ!!若様、どうなさったのですか!?」

「おうらばやしできにのぼっていたらおちたのだ。きにすることは」

「お、落ち!?お怪我は!?お怪我はございませんか!?」

米沢城に突如悲鳴が響き渡った

その発信源はまだ幼いながら、女中を務めている

城内では割と歳が近いため、梵天丸に好かれているようであった

彼女は泥だらけ、頭には葉までくっつけた梵天丸を見て悲鳴を上げ、血が伝う膝を見てまた悲鳴を上げた

泥に紛れて分かりにくいのだが、目ざとく見つけるは一目で僅かな酒の減りにも気づく目の持ち主

「すぐに手当てを!」

そう言っては雑巾を投げ捨て、一度自分で磨いた床で滑り駆け出した

しかし誰もが思うとおり、慌てたものだから、床掃除の時に使っていた桶をひっくり返す

派手に転んだはずぶ濡れ、近くにいた梵天丸もいくらか水飛沫を浴びた

打ち所が悪かったらしく、脛を押さえ、跳ねながら自室に消えていくの姿は、

この青葉城内では名物のようなものだった

 

 

前は雑巾を踏んで、三尺ほど廊下を滑って庭に放り出されていた

庭に敷かれていたのは砂利

そのときばかりは梵天丸も心配したが、驚いたことにほぼ無傷だった

 

 

思い出して笑った梵天丸だったが、その後焼酎と包帯を持って駆け付けたが、

またもや雑巾で滑ったのを見て、本格的に笑いだしたのは言うまでもない

(ちなみに焼酎はしっかり滑り込みで捕らえた)

 

 

 

汚れきり、もう使えなくなった着物はそれなりに高価なもの

梵天丸が着るものは、大名の子であるから、普段からそれなりに値も張る

今月で何度目かのことで、飛んでいったお金のことを考えては一人涙した

この梵天丸という子は素晴らしく賢い、が同時にそれをチャラにするほどやんちゃなのである

 

いや、本当はうつけなのではと思う

 

天才はえてして奇人が多いともいうが・・・、雨の日にわざわざ御裏林まで行って木に登るとは

死にたいのだろうか

「なにかぶれいをかんがえていたな?」

「へ・・・?は、いやいや!まさかそのようなことは!」

「おまえはかんがえごとをすると、すぐうわのそらになるからな」

はっとして手元を見れば、これでもかというほど巻かれた包帯が

手に残る布はもう少ない

「も、申し訳ありません!!」

失態に顔を赤くして包帯を解くを見て、また梵天丸は笑った

 

「ほら」

 

いい加減この癖とおさらばしたい

顔の赤さは戻ったものの、今度は首を項垂れたの前に何かが差し出された

それは見事な花をつけた桜の枝だった

驚いて桜と梵天丸の顔を見比べると、解いた包帯の残る手にそれを握らされた

「おまえ、はなみにいきたいとかいってただろ?

けどいそがしいし、おうしゅうのちりにくわしくないからいけないって、ほかのじょちゅうにぼやいてたらしいな

あめがふったらちるかとおもってな」

じゃなかったらこんなことはしない

そう言うと、ふいとそっぽを向いた梵天丸

その主の優しさには笑い声を上げた

 

 

 

若様、この、いつまでもそばにおります

この戦国の世を、竜のごとく駆け巡る武将になってください

は貴方が天下を治めるその日を夢見ております

 

 

 

あとがき

すみません、我 慢 で き ま せ ん で し た !

ちなみに夢主の方が梵天丸より、四、五歳年上です。梵天丸は三歳くらい?(聞くな

なんか自分で書いてて、将来あの性格・・・?とか疑問が浮かびます

夢主女中設定の伊達夢開始です。ホントはこじゅ夢にしようか最後まで迷ったんですが・・・

こじゅも書くかもしれませぬ←

今のところ増えるかもしれないのは、幸村、元親、設定が思いつかないので微妙な元就

幸村はおそらく確実です←

誰かなりとこじゅのネタをください(ぇ

青葉城って呼ぶべきか、米沢城って呼ぶべきか