目覚めたそこには、
死と恐怖と絶望の匂いが広がっていた
第2夜 あらたなる悲劇
痛みが走る体に顔をしかめながら目を開くと、目の前には白いロングコートを着た男たちがいた
皆一様に、胸には父や母が付けていた十字架がある
「この娘なら申し分ないだろう」
「なにせ両親ともにエクソシストだからな」
「だがここまで幼いが大丈夫か?」
「エクソシストに年齢は関係ないからな」
淡々と話す声に恐怖を感じ、イスから立ち上がろうとした
腕に何かが食い込む
見下ろすと、両腕両足に鎖がきつく巻かれていた
男たちの視線が、を向く
「しかし、異様だな」
「イノセンスが反応したのだろう。適合すれば問題はない」
自分の容姿のことを言っている
尻尾が恐れからゆらゆらと揺れ、耳は垂れさがる
震えが止まらない
二歳にして人の表情を読むのを強いられてきたにとって、無表情は恐怖の対象以外のなにものでもない
その時、鎖が解かれ両側から腕を掴まれる
「い、いや・・・」
大の大人二人の力に、痩せたが敵う筈もなく半ば乱暴に引きずられていった
逆三角形のものに乗り込むと、それは下に下がり始めた
は、柵の間から顔を出した
どこまでも続く縦穴
襟首を掴まれ元の場所に戻される
分かっている
この先は絶対にいいことはない
辺りには死と恐怖の匂いが渦巻いている
ゆっくりと速度を落とし、停止した
そして、目の前に現れたのは真っ白で巨大な生き物
それは、を見ると驚いたような声を上げた
『・・・幼すぎる』
「エクソシストに年齢は関係ない。へブラスカ、イノセンスを入れてくれ」
へブラスカと呼ばれたそれは、ためらいながらも触手のようなものをに伸ばす
その時、は確かに謝罪の言葉を聞いた
触手がに触れると左腕が輝き始めた
は、驚き目を見開く
そして、へブラスカの体の中ほどが光りはじめた
『そんな・・・まさか・・・』
「どうした、へブラスカ。早くしてくれ」
『すでに適合している。だが もう一つのイノセンスの適合者だ』
「何!?」
男たちが騒ぎ出す。イノセンスは一つにつき一人の適合者を選ぶ。二つ適合するなど聞いたこともない
は訳も分からず、左腕を抑える
生まれたときから黒く染まっていた腕
兄上を殺した腕
男たちはこの腕について話しているようだが、こんな腕いらない
欲しいなら、くれてやる
唇を噛み締めると、血が滴った
「早くイノセンスをいれてくれ」
興奮で頬を染めながら、早口でまくしたてている
こんなに澄んだ眼をした、幼い子供にこんな残酷なことをしたくない
だが、へブラスカは従うしかなかった
痩せた小さな体を持ち上げると、イノセンスを入れた
その瞬間、の体に激痛が走った
体を大きく仰け反らせ、叫ぶ
壁に反響して、声が増幅される
そして、気を失った
右手は、光り輝き、白く染まった
手の甲には、十字架が煌めく
これが新たなる悲劇の幕開けだった
<あとがき>
ついに、中編チックに遂行されることになりました・・・
我ながら、暗い過去だなぁ。多分、教団にいた頃の話は、全三話くらいで終わると思います。