失えるものはもう全て失った

                 大切なものはもう作らない

        そう決めたはずだった

 

 

 

 

第3夜 逃亡する少女と囚われた少女

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い教団内に、何人もの足音が響いた

「そっちにいたか!?」

「いや、へブラスカのところはどうだ?」

「そんなところに自分から行くわけもないだろう!」

男たちの怒鳴り声が響く

そして、物陰に隠れながらも逃げる少女

およそ人のものではない耳はせわしなく動き、尻尾はピンと立っている

微かに銀色がかった黒い髪が、顔にかかるがはそれにも構わず走り抜けた

一拍おくごとに、彼女の足もとからは金属を地面に軽くぶつけるような音が響く

スカートが翻ると、右足が義足なのが分かる

左足は、長い間走ったのか切り傷ができ、血が出ている

の耳がピタリと動きを止め、彼女自身も止まった

「こっちは探したのか!?」

前方から聞こえてくる声は、彼女を探していた

は脇道に曲がり、一旦地面に座り込み、荒い息を整えた

前回はうまくいったのだから、今回も大丈夫だろう

その考えは甘かったらしい

前に使った抜け道には何人もの教団の者がつき、窓も同じ

彼女は、弱々しく笑った。

「兄様・・・・」

心細くなり兄を呼ぶが、もういないことは分かっている

自分がアクマにし、破壊した

それの証は自分の体に刻まれた

不意に、周りから人の匂いがした

長い間、まともに物を食べていない。もう逃げられないかもしれない

彼女は、すぐ近くのドアを開け、身を滑り込ませた

 

 

 

ドアの向こうから、何人かが通り過ぎる音がする

は、胸をなでおろした

外に出られなければ、逃げられるだけ逃げるまで

壁にもたれかかり、そのまま座り込む

体はすでにボロボロだった

ここなら見つからないかもしれないと目を閉じようとした

だが、それは何者かの声に阻まれた

「だ・・・れ・・・?」

一瞬見つかったのかと思ったが、その声は女の声だったし、なにより掠れていた

用心しながらも声のした方に向かうと、ベットの上に少女が横たわっていた

両手両足を拘束され、爪には血がこびりついていた

唇は乾ききっており、目には絶望の色が映っていた

少女を見下ろすと、少女は怯えたような視線を向けてきた

彼女もまた実験台なのだろうか

「私は、。教団の人とは違うから安心して」

努めて明るい声を出そうとしながらも、教団の人間の行いに怒りが込み上げた

頭を撫でてやると、少女の警戒が解けた

「あなたの名前は?」

「わたしは、リナリー・・・。リナリー・リー・・・」

「そっかリナリーね。苗字からして、中国生まれ?」

そう聞くと、リナリーの目から涙が零れ落ちた

透明で綺麗な

「帰りたいよぅ・・・。おにいちゃんに・・・会いたいよ」

家族と引き離されたのか

歯を食いしばる

イノセンスに選ばれたばっかりに、こんな目に遭って

イノセンスは神の結晶じゃない。悪魔の結晶だ

左手でリナリーの涙を拭ってやる

「大丈夫。大丈夫だから・・・。これからは私が守ってあげるから」

やせ細った体を抱きしめる

すると、リナリーも抱きしめ返してきた

の頬を、涙が伝った

リナリーをベット横たえらせると、はドアに向かった

リナリーの視線を感じる

は尻尾を一振りすると、振り返り言った

「リナリー、きっと迎えに来るから、それまで待ってて」

人には、支えが必要だ

私は、リナリーの支えになってみせる

そう胸に誓った

 

 

 

<あとがき>

ギャグよりシリアスの方が書きやすいと知った、今日この頃

次の次くらいには、クロスが出る、かも。