私は何も望まない

 

                    だから、

 

 

もう私から奪わないで

 

 

 

 

第4夜 犠牲

 

 

 

 

 

 

 

 

過去は真っ暗な闇。そこに存在した一つの光も自分で壊してしまった

そして、未来も同じだと思っていた

だけど今は違う

「リナリー、大丈夫?」

「う、うん」

一度躓きそうになったリナリーを両手で支える

無理もない。もう2時間近く走っているし、しばらくの間ロクに食べ物も食べていないのだ

それはも同じだが

もらっていないわけではない。自分から受け付けなかった

なるべく早く教団から出なくてはならない。はしょっちゅう抜け出してリナリーに会いに行ったりしているのである程度は体力が戻ってきているが、リナリーは拘束されっぱなしだったので、が戒めを解いてやるまで、ほとんど動いていなかった

リナリーは中国の兄のところまで、連れていかなくてはいけない

中国、か。ずいぶん遠い

そう考えていると、顔が険しくなってしまったらしい。リナリーが不安そうに見上げていた

安心させるように頭をなでると、またリナリーの手を引いて走り出した

イノセンスの適合者が二人も逃げ出したとなると、大事だろう

実際、あちこちから前とは比べ物にはならないほどの足音と怒鳴り声が聞こえる

リナリーが私の手を握り締めた

子供らしからぬ乾燥した手は確かに震えていた

「いたぞ!あっちだ!」

ハッとして振り向くと、白い団服を着た者たちが何人か走ってくるのが見えた

は舌打ちすると、リナリーを抱え上げた

あと少し。あと少しなのに

すぐそこの曲がり角を曲がれば、教団関係者でも迷うほどの複雑な道が広がっている

の鼻が利くからこそ通れる道だ

・・・あッ!」

あと1メートル、というところで不意に手が軽くなった

そんな・・・!

両手に抱えていたはずのリナリーはいず、上を見ればリナリーが男に捕まっているのが見えた

「やっと捕まえたぞ」

「・・・ッ!」

リナリーを置いて逃げられるはずもなく、ただその場に立ち尽くす

辺りには今まで二人を追いかけていたものが、息を切らせて集まってきた

「全く、適合者二名に逃げられると教団としても、世界としても多大なる損害になると分からないのか?No.0」

「ルベリエ・・・」

ただ一人息を切らせていない男。中央特別監査役マルコム=C=ルベリエ

「君の頭の良さには感嘆するばかりだ。この前は見事外まで逃げおおせ、今度はリナリーを連れてここまで逃げるとは」

ルベリエの手がリナリーの顔に触れると、リナリーはびくりと震えた

汚れた手で触れるなと言いたいところだが、これでは思うつぼだ

ギリリと歯を食いしばる

「ここのところ脱走しては、部屋に戻るのを繰り返していたがリナリーのところへ通っていたわけか」

「違う」

思いもよらないの言葉に、ルベリエは少々驚いたようにを見た

「では何だというのかね?」

「ソイツは逃げる途中に入った部屋で会っただけだ。適合者なら人質になるしな

今まで脱走を繰り返していたのは、逃げ道を確認するためだ」

最後の言葉はあながち間違えではない

リナリーに会うついでに、リナリーとの脱走計画を確実にするために、教団内を探索していたのだ

ルベリエの言葉を否定したのは、リナリーがこのあと罰を受けないようにするためだ

人質なら、リナリーに非はない。私だけが悪いことになる

だが、リナリーの顔はみるみるうちに歪んでいった

「そんなっ!は友達だって「私はここから逃れられれば、あとはどうだっていい」

リナリーの言葉を遮り、言葉をつづけた

「だろうな。人に虐げられ続けていた君が、他人に干渉するはずもない」

リナリーの目から涙が零れ落ちた。宝石のように透き通った雫

はルベリエに掴まれた腕を払った

いらただしげに尻尾を振るう

「私はそんなに馬鹿だと思うのか?囲まれているのに、どうやって逃げるというんだ」

「君は本当に子供かね?」

ルベリエが、口の端を釣り上げるようにして笑った

ルベリエを先頭に、あたりを白服の者たちに囲まれ、歩まされる

リナリーがに向かって手を伸ばした

は振り向くと、声を出さずに口の形だけで伝えた

『   ご   め   ん   ね   』

それが、がリナリーに伝えた最後の言葉だった

 

 

 

 

 

新たなイノセンスが発見されたらしい

私が一番初めの実験台だろう

こういうとき野生の勘が役に立つ

私は、もうリナリーに会えないだろう

へブラスカにイノセンスを入れられながら、考える

リナリー、ごめんね。守るって言ったのに

体に入ったと同時に、あたりに竜巻のようなものが発生する

咎落ちの予兆か。前は片足を持っていかれた。今度は死ぬかもしれない

目を閉じる。もう何も聞こえない

を中心に、あたりが光に包まれると。光が晴れる頃には、はいなかった

 

 

 

 

 

顔にあたる冷たいもの

頬にあたると、顔の曲線にしたがい滑り落ちた

服は水を吸って重くなる

 

 

痛む体にはそれさえも、拷問のように思えた

遠くで声が聞こえた

 

 

 

<あとがき>

すっごい思わせぶりですが、最後の声はクロスじゃありません

次回はやっとクロスが出ます!ヒャッホウ!(ウザい