もしも俺がいなかったら、お前は生きていたか?
冷たき花に
「クロス元帥が自分からご帰還だなんてめずらしいねー」
別に来たくて来たわけではない
相変わらず整理のできていない司令室を横切りながら、クロスは思った
確かに事実だった。気付けば、教団内を早足で歩いていたのだから
自分らしくもない、と心の中で舌打ちをしながら
「ついに大元帥から連絡がきちゃったとか?」
「んなわけねぇだろ」
クロスはしばらく教団との連絡を絶っていたのだが、さすがに大元帥まで出てくるようなことには一度もなっていない
それは信頼されているのか、あきらめなのか
教団の者は後者だろうとほとんどが確信していたが
ふと、コムイの笑顔がいつもと違うことに気づいた
死者など腐るほど出る教団で、室長の座についているのだからやつれるのも当然のことだが、いつもなら心の奥底に隠しているであろう悲しみと動揺。
そして、なにかを隠そうとしている
そこで、どんなときでも匂いと足音で自分を見つけるの姿が見えないことに、不信感を抱いた
は、クロスならどんなに混んでいる祭りの時であろうと足音は分かるし、どれほど匂いの入り混じる繁華街であろうと、クロスなら見つけることができると言っていた
「は任務か」
半ば断定的に言ったのは、自分の推測を打ち消すため
しかし、の名前が出た途端、コムイは手の中に顔を埋めた
当たらないでくれ、そう思った推測は事実に変わった
コツ・・・
誰もいない聖堂の中に靴の音が響く
締め切られた聖堂の中には、花の匂いが充満していた
十字架の下には、溢れんばかりの白い花が入った黒い棺がある
蓋はそのすぐ横に置かれていた
階段を上りきると、一対の白い小さな羽根が見え、ゆっくりと羽ばたいた
アルページュ
アルページュは、クロスの肩に乗った。本来ならば、自分の主の肩の上にいるであろうそのゴーレムは、がすでにこの世にいないことを明確に物語っているようだった
「ちゃんは」
暫しの沈黙の後、覚悟を決めたように話し始めたコムイ
その手は、固く握りしめられていた
本当は次の言葉を聞きたくはなかった
「ちゃんは、死んだよ」
ほとんど確信してはいたことだが、おもわず声が漏れそうになるのをこらえる
頭の中ではその言葉が何度も反復される
「3ヵ月前の話だよ。別に難しい任務じゃなかった。レベル1の破壊任務。僕たちは、ちゃんのことだから、いつものように無傷で笑いながら帰ってくると思ってた」
だが、違った
「逃げ遅れた子供を庇って、アクマの攻撃を受けた。探索部隊に聞いたけど、出血が多すぎて助けようがなかったんだって」
コイツのやりそうなことだ。自分のことを省みず、他人のことばかり気にする
3ヵ月たっても変わらない銀色の髪を手で梳いてやる
神はが死んでも、その運命を手放そうとはしなかった
まるで、駄々をこねる子供のように
髪の毛から手を離し、冷たくなった手をとる
手の甲に埋められた十字架
の体には、いまだイノセンスが寄生している。へブラスカに頼んでも、取りだせなかったらしい
「の運命を弄びやがって・・・・」
何故がイノセンスに魅入られなければならなかった?
何故両親がエクソシストだった?
何故は普通になれなかった?
頭に目を移せば、銀色の耳が目に入る
は常々、普通がよかったと言っていた
自分の耳と尻尾を嫌っていた
ヒトを不快にさせるからと
「なあ、」
声をかければ、嬉しそうに揺れた尾はもう動かない
「お前は俺に会えてよかったか?」
宝石のように輝いていた瞳は、もう俺を見つめることはない
「もしも」
俺を見つければ、すぐに駆け寄ってきたはもういない
「俺に出会わなければ、お前はまだ生きることはできたのか?」
そう言い切ると、の唇にキスを落とした
彼女の服についた透明なしみ
風にあおられて、カーテンがはためく
<あとがき>
5000Hit企画、焔火様へ愛をこめて!(いらね
リクエストは、クロスでシリアスでしたが、いかがでしょうか?何だか偽クロスになった気も・・・。
リクエストありがとうございました!これからも当サイトをよろしくお願いします!