見つめる先の煙が晴れ出す。
目を細めて一刻でも早くツナの姿を捉えようとする。
しかし薄まった煙幕の先にあったものはあまりに期待はずれなものだった。
標的19 大嫌いな君へ
地に伏す少年。
は目を見開いた。あの特殊弾が届かなかったはずがない。
白兎が打ったからという贔屓目なしでも、確かに当たったと直感が言っているからだ。
まさか受け入れられなかった・・・?
「どうやら外したようですね」
またしても薄笑いを浮かべる骸の言葉が右から左へ受け流される。
しかし何も起こらないと見るや、諦めたように目を逸らした。
残念だが息があればどうにかなるだろう。
銃をホルスターへ戻し、タガーへと切り替える。
「おや、ボンゴレの元へ行かないんですか?」
「背中を見せてどうする。
それにツナがいないほうが」
後ろに忍び寄っていた犬の鳩尾に肘を突き刺す
「っ!!」
「都合がいい」
口角を吊り上げる。
素早く身を返し、ひるんだ犬の襟首を掴み、床へ叩きつけた。
衝撃音とともに骨の軋むような気味の悪い音が響く。
すぐさま犬を背後に突き出すと、その肩口にトライデントが突き刺さった。飛び散る血液がの頬に紅い花を咲かせる。
すでに意識のない身体を放り投げると、柿本千種目掛けてタガーを突き出した。
それは首を浅く切り、千種は身を翻した。
追い込むようにして数歩踏み込まれ、嵐のような斬り込みに彼は思わずジリジリと後退りし始めた。
やはり線の細い柿本には接近戦は向かないらしい。
ヨーヨーが宙を舞う。
不意に足を引っ掛けられ、バランスを崩した千種の頸動脈目掛けて刃を落とした。
切っ先が白い喉に僅かにめり込むと同時に、微かに殺気を感じて身を横に投げた。
埃の中を数メートル転がる。
右腕にはピリッとした痛みがあった。
「安心してください。貴方を殺す気はさらさらありませんよ」
「だからって随分ひどいな」
霧散した千種とは違う方向から声が響いた。
「こんなの刺さったら、凡人なら数分で昏睡状態だ」
「僕の見込んだ女性ですよ?その程度で死ぬはずがありません」
「そりゃどうも」
髪の毛をほどき、そのベルトで二の腕をきつく締めた。
まとわりつく髪が邪魔だが仕方ない。
「クフフ、ほどいた姿も魅力的ですね。誘ってるんですか?」
「お前を誘うくらいならルナの靴を舐める」
思わず顔をしかめてしまったが、すぐに考えを改めて目を細め好意的な笑みを浮かべて見せた。
「まあ」
「こっちまで来れたら、そういうことにしておいてやろう」
千種が膝から崩れ落ちた。力の抜けた手から最後のヨーヨーが転がり出て、の爪先で倒れる。
「乱暴ですね」
「死にはしないから安心しろ」
まだ名もない葵の研究の途上で出た副産物。
呼吸など必要最低限の機能を残して、全ての感覚、機能を遮断する。
便利なのは僅かに傷口から入っただけでもかなりの効力を発揮することだ。
白く輝くタガーを見てビアンキが首を振った。
「そんなもの持っていられたら口付けませんよ」
「近付けないみたいなノリで言うな。お前にそこまで近寄りたくない」
ビアンキの口から口付け(キス)なんて言葉を聞いたのはいつぶりだろう。
恐怖のバレンタインデーを思い出して、は口を押さえた。
あの日は母上以外の危機で初めて死を覚悟したよ。
この時のことをいつまでも反省するだろう。
「ところでさっきのセリフは時効じゃないですよね?」
獄寺がトライデントを持ってツナの元へ歩いていた。
「貴様っ!」
「動かないでもらいましょうか」
獄寺がトライデントを投げるような素振りを見せた。
ホルスターへ伸びた手が行き場を失い宙をかく。
もしも急所にでも当たったら?
まさか骸がそんなヘマをするとは思えないが、そんな思考が頭をよぎってしまった。
唇を噛んで他に道はないか探すも、焦っている間に肩にビアンキの手がかかった。
普段感じる寒気ではなく悪寒が身体を突き抜ける。
「そこまで大胆だとは思いませんでしたよ。
さあ、一緒に子作りしましょう」
「殺すぞ。誰がお前なんかと」
傍から見たら百合に見えるだろう。
ビアンキの細い指が頬を撫で、は汗ぐっしょりだ。
サソリと南国果実が混ざって、核分裂並の化学反応を起こしている。
毒サソリの手がの顔を上へ向けた。
「様!」
白兎の悲鳴のような叫び声。
今にも刀を抜きそうだが、掟で手が出せない。
「ツナ、さっさとしやがれ!」
まばゆい光が辺りを照らし、ビアンキが弾かれた。
足が浮き、急激に彼女との距離が開く。
「、無事か?」
額に炎をともし、グローブのエンブレムは]の文字。
「骸、お前を倒さなければ
死んでも死にきれねぇ」
ボンゴレ]世、沢田綱吉その人だった。
<あとがき>
夢主だって強いんだ!っていうところを見せたかった話。