aaああ、暗い暗い。

 

 

 

 

 

標的22 消えぬ闇

 

 

 

 

 

肉の裂ける感覚。生温い血の温度。

 

 

 

 

 

慣れた感覚だ。ただ違うのは対象が見えぬこと。

闇の中での殺しはよくあることだったがそれとも違う。

自分は落ちているのだろうか。闇の中を浮いているのだろうか。地べたに死体のように転がっているのだろうか。

 

これが

 

操られるということなのだろうか。

 

難しいことを考えているわけでもないのにとてつもない疲労が圧し掛かる。

思考を続けるのも難しい。

どうしようもない倦怠感。

人にいいようにされていることにプライドを傷つけられることもないし、恐らく]世に拳を向けていることにも気が咎めない。

いつまでもこの微温湯に浸かっていたい。

徐々に頭の回転が遅れ始める。

一方で誇りはどうしたと叫ぶが、もう一方では重い瞼を閉じてしまえと囁く。

僅かな傷口からヘビのようにゆっくりと侵されていく。その進行はゆっくりでありながらも確実に触手を伸ばす。

急に膝の力が抜けて、両膝が重力に従って落ちる。

もはや辺りが黒か白かも分からない。

ジリジリと意識が飲み込まれていくのが分かるが、それを防ぐ術えを知らないし、防ごうとも思わない。

 

 

 

 

幾度も名を呼ぶ声が聞こえた。

それは壁を通して聞いているような、とても儚ない声。

誰の名だ。

あの自称右腕の名か。或いは野球少年の名か。

もはや自分の名前すら理解することは叶わなかった。

冷たいとも熱いとも分からない床に頬をつけ、眠りの誘惑に身を委ねようと瞳を隠す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また悲劇を繰り返すのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突にそんなことばが脳髄を貫いた。

一息にと言わずとも意識がゆっくりと浮上を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また大事なヒトが消えるのを何もできずに見ているのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、そんな」

 

馬鹿なことがあるか。

鉛のように重い唇を動かすと蚊の鳴くような頼りない声が零れ落ちた。

しかしそれは確かな抵抗。

重くてだるい身体を叱咤して、辛うじて顔を上げる。這いつくばりながら前に進む。

遥か先に見える僅かな光明を目指す。

絶対に守らなくては。もう何もできないのは嫌だ―――

 

 

 

振り上げられた三叉槍。

輝く刃は膝の下のツナを捉え、の唇は勝利を確信し醜く歪む。

白兎が何かを感じて耳を動かした。

 

「止めなさい!!」

 

叫びは届かず、刃は無防備な腕を狙った。

 

 

 

 

 

ドスッ

 

 

 

 

 

突き刺さる音が鈍く響き、血がコンクリートに滴る音が生々しくツナの鼓膜を震わせた。

しかし痛みはない。

恐る恐る目を開けると、目の前の状況に言葉を失った。

白いシャツを染め上げる赤。は痛みに顔を顰める。

 

「貴様のような、人間のクズに、身体を好きなように使われるとは、屈辱だな」

 

戻ってきたに安堵したツナは声をかけようとする。

しかしその口調が変わった。

 

「クフフ、まさか自分で解いてしまうとは。

さすがは僕の妻ですね」

 

「お前マジで、いい加減にしろよ」

 

血を吐く。

内臓が傷ついたかもしれない。刺し所を間違えた。

急に身体から力が抜けて手をついた。

戸惑うツナに笑みを投げると、腹から三叉槍を引き抜く。それを待っていたように血が噴き出す。

これはちょっと、本当にまずいかもな。

 

、血が」

 

「ヘーキヘーキ。気にするな」

 

こうして見るとツナは本当にT世プリーモに似ている。

呑気にそんなことを思って立ち上がった。視線の先には六道骸。

ひど残念そうな顔をしていた。

 

「まさかそんな手に出るとは思いませんでしたね」

 

「ノッテの女をなめるなよ」

 

「大丈夫ですよ。ちゃんと僕が舐めてあげますからね」

 

何を!?そしてなんで!?

ぞわっと一気に全身を悪寒が駆け巡った。

チキンスキンが半端ない。

 

「下がっていろ」

 

「いいや。これは私がけじめをつける」

 

私がお前を傷付けた。

小さくつぶやくと事の重大さが身に染みた。日本海にでも身投げしたい。

頬にぬくもりを感じて目を上げると、柔らかな笑みを浮かべたツナが言う。

 

「お前は悪くない。全ての元凶はあのパイナップルだ」

 

「くっ、おいしいとこ取りですか・・・。

この後ベットの上で慰めてあげるのは僕の役目でしたのに・・・!」

 

「腐れ」

 

直後にツナの渾身の一撃が炸裂して、案外呆気なくこの一見は幕を閉じた。

 

 

 

復讐者に引きずられていく骸たち一味。

は先の言葉を思い出して、思わず呼びとめた。

包帯の下には不審そうな表情が刻まれているのだろう。

はひどく険しい顔で骸のそばに膝をついて、ツナたちに聞こえないように声をひそめて、

「『奇跡の少女』の由来を知っているのか?」と尋ねた。

 

「ノッテの中でも若く、そして秀でているからではないんですか?

奇跡のように強いと」

 

「・・・そうか。

時間を取って申し訳ない。連れて行ってくれ」

 

知らないならそれでいい。

ぽつりと呟いた言葉は骸に疑問を抱かせるには十分だったようで、その意味を尋ねようとしたようだった。

しかしそれは許されず、容赦なく引きずられていく。

復讐者がいなくなると入れ替わるように医療班がやってきた。

にわかに辺りが騒がしくなる。

 

「さて、私も行くか」

 

どこ行くの?」

 

「そりゃ手伝いにだな」

 

ハイパーモードから戻ったツナの問いかけに、さも当然のように答えると猛烈な反対が返ってきた。

 

「そんなケガしてるのに手伝いしちゃダメだろ!

もしろ手当てされなきゃいけないのに!」

 

「そうだぞ。ケガがひでーんだから休んでろ。

オレが優しく介抱してやるぞ」

 

リボーンの言葉に心が揺れなかったと言えばウソになるが、後始末までしっかりやるタイプなのだ。

痛む傷口を庇いながら立ち上がると、いつの間にか目の前に白兎がいた。

 

「平気だ白兎」

 

様」

 

腹に一撃。

すでに重傷のは成す術なく床に崩れ落ちた。

 

「む、謀反の兆しあり、か・・・・」

 

ちゃん!?白兎お前何やってんだよ!

あのイチャつきはオレたちへの当てつけだったのか!?」

 

「この程度で倒れられるほど重傷なのですから、迅速に的確な処置を施さなくてはいけません」

 

そう言うと白兎は獄寺たちをストレッチャーに乗せて運ぶ医療班を見た。

よく見れば葵もいることが分かる。

葵の班だと分かるや否や死神が降臨した。

 

「何をもたもたしてるんですか。

そんなゴミ共より早く様の手当てをしなさい!」

 

「(ゴミ言った!)」

 

「特に葵!貴方は様直属のはずなのに、何故上司を後回しにしてるんですか!

雑魚は部下に任せて、こっちへ来なさい!

全く無能な奴らばっかり集めやがって、一から叩きなおしてやろうか」

 

「一般はあたしと一緒に担当!

二班はボンゴレ!あとはその他もろもろに分散!

死にたくなかったらさっさとする!」

 

『イエス、マム!』

 

やはり白兎は最強だった。

こうしてこの一件の全てが終了したわけである。

 

 

 

<あとがき>

やっと終わった・・・・!黒曜編終わったよ!あたしゃやったよ!