ふっ、私を甘く見るなよ
2.Water
「ただいまぁ〜!」
「お帰りなさい!ちゃん、って、ええ!?」
扉を開けて敷居をまたぐと、桃が玄関まで迎えにきた
驚いているのは、久しぶりに背中に子供を背負っているからだろう
ああ、やばい。着物汚してきちゃったよ
後で絶対とばっちりくらうわ、と思っていたが、桃は背中の少年のことが気になって仕方がないようだ
「ちゃん、その子大丈夫なの?」
「気絶してるだけだから、大丈夫。布団片付けてないよな?」
靴を脱ぎながら聞くと、桃がその場を離れる感じがした
恐らく片付けてしまったらしい
桃が開きっぱなしにしていった障子の向こうは居間として使っている場所である
足を踏み入れると、案の定そこには祖母が座っていた
「ばあちゃん、ただいま」
「ああ、お帰り。その子は更木から拾ってきたのかい?」
「うん。もしかしたら、ここに住むことになるかもしれないけど、いい?」
そう聞くと、祖母は頷いてくれた
いつもながら迷惑をかけてしまってすまない
そう心の中で言いつつ、桃のところへと向かった
少年を背中からおろし、布団の上に寝かせる
さて、どうやって起こそう
「ちゃん、この子生きてる・・・、よね?」
「あったりまえだろ?胸が上下してるし」
今のところは生きているが、このまま起きなければ栄養失調で死んでしまうかもしれない
ま、ケガしてないから多少手荒でもいいだろう
私は、少年の両肩をつかみ揺さぶった
「ちゃん!?そんなことしたら死んじゃうよ!!」
「だいーじょぶ!これくらいで死にゃしない」
これをやれば大抵の者は起きる。いや、起きざるをえない
が、その少年は起きなかった
舌打ちすると、パッと両手を離す
すると、少年の頭はちょうど枕に乗った
「・・・プライドが傷ついた」
記録破りかコノヤロー。いいだろう、その挑戦受け取った(ぇ
ゆらりと立ち上がると、庭へつながっている障子を開く
桃は不思議そうに見ている
私は井戸の横に置いてある水桶を掴んだ
中には水が入っており、氷が張っている
先程の文では微塵も感じられなかっただろうが、今の季節は冬
それを持って部屋に戻る
「ま、まさか・・・」
「そのまさかだよっとぉ!!」
少年の上で、水桶をひっくり返した
その時ちょうど少年が目を開いた
「「あ。」」
っ・・・・。ここは、どこだ?
俺は、地獄のような場所を見た
見渡す限り死体と血の海
鼻につく腐臭と鉄の匂い
その光景に、俺は胃の中身を吐いた
何度も
胃の中に何もなくなると、俺は震える足を押さえながら立ち上がった
恐怖に突き動かされて
それからは、生き延びるために必死だった
ろくな食い物も取らずに、煌めく刃と血飛沫から離れようと必死で走った
俺は、重い瞼を嫌々ながらに上げた
視界に広がるのは、不自然に歪んだ景色
初めて聞こえたのは、
「「あ。」」
バッシャァアアァア!
「うおっ!?なんだこれ、冷た、冷てぇ!」
突然顔面にかかった尋常じゃないほど冷たい水を着物の裾で拭う
「フハハハハ!ざまぁみやがれ!」
「悪役になっちゃってるよ、ちゃん!」
両脇から声が聞こえてきて、視線を横にずらした
銀髪と黒髪の女
桶を両手に持っているところを見ると、銀髪の女が俺に水をぶっかけたらしい
「てめぇ、何しやがる・・・・」
「何って、栄養失調でお陀仏する前に起こしてやったんだろ?礼くらい言われてもいいもんだ」
「逆に死ぬところだ!」
気絶してるのに、真冬の水をぶっかけるやつがいるか!!
「ここにいるじゃん。」
「ああ、そこに・・・、って心読むんじゃねぇよ!!」
「良かったぁ!これだけ元気なら大丈夫だね!」
今まで黙っていた黒髪の女が、言った。
どうやら銀髪の女よりも、こっちの方がまともらしい。
「あのね、あなたは更木で倒れてたところをちゃんが見つけたの。」
「そーいうこと。あ、ついでに私は、で、こっちは雛森桃。」
交互に指さしながら、名前を言う。
「で、お前は?」
「は?」
「だから、名前は何だ?」
信用してもいいものか。
一瞬迷ったものの、の笑顔に押されてしまった。
「日番谷・・・、日番谷冬獅郎だ。」
「冬獅郎か!よろしくな!」
は満面の笑みで、俺の手を握ってきた。
安心するような温かさを感じた。
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<あとがき>
やっちゃたー!
愛する冬獅郎の顔に氷水ぶっかけちゃったよ!!
でも、インパクトのある起こし方ってこれくらいしか思いつかなかったんだよ!